心不全の薬はたくさん飲んだら健康に悪そうです
患者様に心不全の薬を増やそうとすると、多くの患者さんで症状はよくなっているから、お薬の種類や量をふやしたくないと言われます。特に心臓の収縮力が悪化している場合は心不全管理に薬物療法は必須です。なるべく、心不全治療薬の4種類を内服し、さらに、容量を十分に増やしていくことが、心不全再入院と生命予後(寿命)を伸ばしていくには必要とされています1。しかし、外来で患者様からの「今のままで薬の種類を増やしたり、容量を増やしたくありません。」という声をよく耳にします。いままで気づかなかったのですが、ある時「なんで、薬の種類を増やしたり、容量をふやしたくないのですか。」と聞いてみたところ「心不全の薬をたくさん飲んだら健康に悪そうだからです。」と答えられた方がいて、びっくりしました。循環器内科医として盲点でした。
心不全治療薬の種類
心不全とは,心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。現在、予後改善効果がある治療薬は①アンギオテンシン変換酵素阻害薬、②ベータブロッカー、③SGLT2阻害薬、④ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬が代表的です。これらの4種類を称してFantastic four (ファンタスティック・フォー)などといいます。これらをすべて内服したほうが、心収縮力が低下した心不全では予後が良いとされています1。ですから、外来で症状が安定していたとしても、必要に応じて、これらの薬剤の追加や増量の提案を行っています。
医者の怠惰 (臨床的惰性: Clinical Inertia)
先程述べましたが、ガイドライン(治療の指針)や科学的根拠に基づいて、お薬を増やそうとしたとしても、患者様に投薬調整を提案するのは 良くない表現ですが ”骨が折れる”わけです。そうすると、今のお薬を続けましょうと言い続けることが、患者様、医師にとっても心地よくなってしまい、治療が強化できないことがあります。これを臨床的惰性, Clinical inertiaと呼ばれており、治療が不十分になったり、治療が遅れてしまったりと大きな問題となっています2。
まとめ
薬の種類が増えるのは一概に健康に悪いわけではなく、心機能が低下した心不全治療では必要十分なお薬をしっかり内服するほうが治療効果が高いです。
参考文献
- Bauersachs, J. (2021). Heart failure drug treatment: the fantastic four [Review of Heart failure drug treatment: the fantastic four]. European Heart Journal, 42(6), 681–683.
- Verhestraeten, C., Heggermont, W. A., & Maris, M. (2021). Clinical inertia in the treatment of heart failure: a major issue to tackle. Heart Failure Reviews, 26(6), 1359–1370.
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